練馬区内の某駅周辺に住んでいた私は、仕事の都合で引っ越すことになった。
次の物件に求めた条件は、会社からのアクセスと家賃、駅近であること。
それに、ほどよく人が少ない穴場のような場所だった。
辿り着いた尾久という街

ここが本当に東京23区内のJR駅なのか?
非礼ながらそう思ってしまうくらいには、初めて降り立った尾久駅前の光景はよく言えばコンパクト、悪く言えば閑散としていた。
ざっと見渡す限り駅敷地内のコンビニが一軒と、立ち食い蕎麦屋が一軒。
他に一人暮らしの生活でお世話になりそうな店はちょっと見当たらなかった。
駅から徒歩3分ほどの路地裏に借りた1Kのアパートはすぐ近くに別のコンビニがあったので、自炊をほとんどしない自分にとってはひとまず安心だった。
しかし、そのコンビニ一軒に家でのすべての食事を頼るのは少し心許ない。
私はすぐに尾久の街を探索することにした。
工場町は、私にとってちょうどよかった

住んでみて知ったことだが、尾久駅周辺には北区と荒川区の区境が走っている。
私のアパートの住所は北区だったので、そこから徒歩であらかわ遊園へ行けるのは不思議な感覚だった。
それと、スーパーマーケットとドラッグストアがうまい具合に点在している。
この具合が私にはすごく、ちょうどよかった。
尾久は町工場やスナックが残る昔ながらの街といった趣きで、おそらく都心に勤める人間の住む場所として造られてはいない。
だから、カップルやファミリー層が住むのには少し物足りないのではないかと思う。
その点私は独身。
必要最低限のコンビニとスーパーマーケットが確保されていれば、何一つ文句はなかった。
チェーンのカフェや居酒屋は皆無だけれど、それらは休日に遊びに出た街で入ればよし。
都区内とは思えないゆったりとした街の空気が、心地よいと思えるようになった。
“一流駅”に住んでいる心地に

少し距離はあるが、徒歩20分弱で山手線の田端にも出られる。
自転車に乗ればさらに買い物が便利な王子も近く、気候がよい季節にはもう少し頑張って漕いで赤羽や池袋、上野・秋葉原までも行けない距離ではない。
さらに特筆すべき点が、JR高崎線や宇都宮線、上野東京ラインもなぜか停車すること。
横浜、川崎、品川、新橋、東京、上野ときて尾久、さらに赤羽、浦和、さいたま新都心、大宮。
まるで日本屈指の一流駅と肩を並べているみたいじゃないか。
駅徒歩3分の1Kアパートで家賃も自分の住んだ当時で7万円。
アクセス面でいえば、かなりお手頃な街だと思う。
都心のキラキラ感はなくても

目立ったものは何もないと思っていた尾久の街だが、駅の裏側に大規模なJRの車両基地があって、イベントなどある際は鉄道ファンで賑わうらしい。
いずれにしても、都心にありがちなキラキラ感や、ベッドタウンにあるどこかせせこましい感じは尾久にはなかった。
私は仕事の都合で引っ越し、今は結婚もしたけれど、単身者には案外アリな街なんじゃないかなと今でも思っている。
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